横浜開港資料館

HOME > 館報「開港のひろば」 > バックナンバー > 第103号

館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第103号
2009(平成21)年1月28日発行

表紙画像

資料よもやま話
荻田小風(おぎたしょうふう)と『実業之横浜』

『島』

やがて、『実業之横浜』文芸欄の編者になった荻田は、「島」に関心を持ち、大正4(1915)年1月から「伊豆の大島」(12巻1号)、「初島遊記」(12巻8号)、「佐渡島」(15周年記念号)、「淡路島」(13巻5号)など大正7(1918)年11月まで、島の地理、歴史、民俗などについての作品を掲載した。そして、それらの成果を一冊にまとめて、大正10年8月に洛陽堂から『島』(図6)を発行した。

図6:荻田才之助著『島』 荻田杏子氏寄贈
荻田才之助著『島』

荻田は、『ホトトギス』の同人でもあったので、同誌を主催していた高浜虚子が、この著書に次のような序文を寄せている。荻田の文章は、「写生文より出でゝ一家を為しているので頗る読み易い。さうしてさながらに其風景に接するの想いがある。いはゞ著者と共に其等の島々に遊んで親しく名勝、地理、風俗に接するが如く」感じさせ、「机上の友たると共に島に遊ばんとする者の参考書としても好適のものである。」というものであった。

また、『島』に対する書評は、『朝日新聞』、『国民新聞』、『時事新報』、『東京日日新聞』、『報知新聞』、『万朝報』の各紙に掲載されたが、いずれも好評であった。

産業・貿易・商品・包装等に関するもの

荻田は『実業之横浜』では、主に文芸欄で活躍したが、12巻5号(大正4年5月)には、「柳暗花明居主人」名で「先づ小工業より」を掲載した。

「逑作目次」には、「産業・貿易・商品・包装等に関するもの」として、勤務に関わる著作も書かれているが、冒頭には同じ時期に『実業之横浜』に載せた「輸入防遏の殊勲工場」が見える。その後、昭和四年五月に『名古屋商工会議所月報』に掲載された「包装改善問題について」まで、『内外商工時報』、『東京玩具商報』、『染色時報』、『日本一』、『台所の智恵』、『荷造と包装』、『鉄道の研究』、『製材と木工』、『実業時報』、『帝国工芸』などに掲載した、全部で28のタイトルが書かれている。

この間、大正8(1919)年6月から大正9年8月まで、農商務省商務局機関誌『内外商工時報』に連載したものをまとめて、大正9年11月『貨物の包装』を、内外商工時報発行所から発行した。農商務省関係では、大正10年8月に、同じく内外商工時報発行所から『我邦の関税』を発行している。

荻田は、大正14年4月から商工省に勤務先を変えるが、農商務省及び商工省に勤務する傍ら、青山学院高等学部商科で「本邦重要貿易品について」の講義を行った。その講義録をまとめ、大正14年7月に巌松堂書店から『重要貿易品の研究』を発行した。このほか、母校早稲田大学でも講義をしており、『商品の包装』や『商品学』の講義録を発行していた。

終わりに

荻田は、その後昭和10年8月から輸出組合中央会、昭和13年7月から貿易組合中央会、昭和17年2月には貿易振興協議会、日本貿易会に所属し、昭和18年に職を退いた。

『実業之横浜』に作品を発表しなくなってから、勤務に関係する雑誌のほかは、時折『ホトトギス』に寄稿していたようである。

最後に、この稿を書くにあたり、荻田小風に関する資料をご寄贈いただいた荻田杏子氏と資料のご寄贈、ご提供をいただいた石坂英理子氏に感謝申し上げます。

(上田由美)

このページのトップへ戻る▲