横浜開港資料館

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館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第106号
2009(平成21)年10月28日発行

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資料よもやま話2
マイクロ・フィルムの劣化調査報告

はじめに

当館では年に2回、資料整理週間を設け、調査研究員は、大がかりな資料の移動や資料整理、書庫の清掃等を行う。ここでは、今年6月の資料整理週間(6月23日〜26日)を利用し実施した、マイクロ・フィルム(以下MF)の劣化調査について報告をしたい。

当館では、かねてからMF収蔵庫の酢酸臭が問題となっていた。MFの巻き返しを行うなどの対策は実施したものの、今後MFの保存について、どのような対策をとるかは、明確にはなっていなかった。展望をもった対応を、少しずつでも進めていくためには、MFの劣化調査を行い、実態を把握することが必要であった。

MFの劣化調査については、すでにいくつか報告がある。2007年11月に東京大学東洋文化研究所が主催し開催された第3回アジア古籍保全講演会では、安江明夫氏による「マイクロ資料の劣化―原因と対処」および田崎淳子氏の「東洋文化研究所マイクロフィルム状態調査―A‐Dストリップを用いて」が発表された。筆者も右の講演を聴講したが、ADストリップを用いたMFの劣化調査は、高額な経費や時間をかけずに指標となる結果を得られる方法であるという田崎氏のお話を聞き、いつか試みてみたいと思ったものである。

なお安江氏および田崎氏の発表は、『資料保存の調査と計画』(安江明夫氏監修 日本図書館協会資料保存委員会編集企画 日本図書館協会刊 2009年)に収録された。本稿の執筆にあたっては、前述の講演および同書を参考にさせていただいた。

当館は1981年に開館したが、開館前の準備室段階からMFでの資料の収集を積極的に行ってきた。これは、横浜市が関東大震災と空襲で多くの資料を失い、市域に残された資料が少ないため、国内外からMFで資料を収集したためである。閲覧室でのMF閲覧は行っていないが、収集したMFから随時複製本を作製し、複製本による閲覧公開を行っている。

MFの収納は、MF収蔵庫にMFキャビネットを設置し、収納している(写真1)。MFキャビネットは、4段引き出し型のものが108台あり、現在16mmフィルム706本、35mmフィルム14,708本収納されている。しかしMFキャビネットの収蔵量を超えるMFを所蔵しているため、一部のMFについては、業者に保管を委託し、施設外で保管を行っている。今回の調査は、MFキャビネットに収納された15,414本を対象とした。

写真1 MF収蔵庫の内部
MF収蔵庫の内部

MF収蔵庫の環境について述べておきたい。MF収蔵庫は、開館当初から完全空調ではなく、執務時間に限って空調が入る状態である。2カ所ある窓はブラインドを降ろしているが、窓の近くは外気の影響を受けやすくなっている。除湿器を設置し、乾燥し湿度の下がる時期以外は常に稼働させ、除湿に努めている。完全空調ではない点、収蔵庫に窓がある点等、問題は多い。

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