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「開港のひろば」第106号
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資料よもやま話2
マイクロ・フィルムの劣化調査報告
ADストリップ調査を実施して
調査は、各引き出し(全三二四段)のMFのうち1個ないし2個、それぞれ一定の場所(引き出しの前から三列目、左から六番目のMFなど)のMFについて、399個のサンプルを抽出し、ADストリップにより調査を行った。ADストリップは、リトマス試験紙ほどの紙片で、MFの酸性度測定紙である。サンプル数は、カール・ドロットのランダム・サンプリング法に基づき400前後、399のサンプルを抽出した。
当館が所蔵するMFの入手方法は、次の3種に分けられる。(1)地方文書など、所蔵者のご厚意により当館で作製したMF、(2)諸機関が所蔵するMFのデュープを作製させていただき、収集したMF、(3)購入したMF、である。前述したように当館ではフィルムの閲覧を行っていないことから、マスターフィルム(ネガフィルム、以下N)からのポジ・フィルム(以下P)の作製はほとんど行っていない。そのため当館で作製したMFは、マスターフィルム(N)のみを所蔵しているものが多い。一方(2)と(3)のフィルムについては、Pが多いと考えられる。
キャビネットの収納は、地方文書・新聞・雑誌・海外文書といった資料群ごとの区分になっており、フィルムはNとPの区別なく収納されている。また撮影用フィルムのTAC(トリアセテートベースで寿命が100年といわれる)と、PET(ポロエステートベースで寿命が500年といわれる)のほかに、複写用フィルムのジアゾも混在して収蔵されている。
調査の結果、サンプル中Nが210個(52.6%)、Pが189個(47.4%)であり、Nが若干多いことが分かった(表1)。
表1と2に示したように、2.5%と少ないながらも、ジアゾを所蔵することがわかる。TACとPETを見てみると、TACがPETの2倍ほどもある。PETは1993年以降製造されたが、28年前の当館開館当時はTACが主流であり、開館前から開館後の予算が潤沢であり、資料収集が積極的に行われた時期に収集したMFがTACであったことが原因であろうと思われる。
なおジアゾについては、筆者ではTACフィルムと区別できないため、業者に判断をお願いした。またTACとPETとの区分については、有孔リールのものは、透かしてTACとPETを区分することができたが、無孔リールについては、フィルムの端を切り取り、判断した。
ネガ・ポジ別の 数と割合(%) |
フィルムの種別数 と割合(%) |
劣化度 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
判定 0 | 判定 1 | 判定 2 | 判定 3 | ||||
ネガ(N) | 210 (52.6%) |
ジアゾ | 10 (2.5%) | 0 | 0 | 7 | 3 |
TAC | 134 (33.6%) | 17 | 94 | 23 | 0 | ||
PET | 66 (16.5%) | 32 | 32 | 2 | 0 | ||
ポジ(P) | 189 (47.4%) |
TAC | 117 (29.3%) | 6 | 92 | 19 | 0 |
PET | 72 (18.1%) | 36 | 34 | 2 | 0 | ||
399(100%) | 399(100%) | 91(22.8%) | 252(63.2%) | 53(13.3%) | 3(0.7%) |
判定0=異常なし 判定1=劣化が始っている 判定2=劣化が活発に進行中 判定3=危機的状況
計 | ||
---|---|---|
数量 | % | |
ジアゾ | 10 | 2.5 |
TAC | 251 | 62.9 |
PET | 138 | 34.6 |
計 | 399 | 100 |
表1でジアゾ・TAC・PETについて、フィルムの劣化のレベルを見てみると、ジアゾは、判定2ないし3であり、劣化がかなり進んでいることがわかる。またTAC・PETを見てみると、TACは判定1が最も多く、186件(TAC全体のなかでの割合46.6%)、判定0は23件(TAC全体の中での割合9%)である。PETでは判定0が最も多く68件(同じくPETのなかでの割合49%)で、TACはPETに比べて劣化が進んでいることが分かる。Nのうち判定1から3となったものは161件(76%)であり、劣化が進行していると判断される。このことは、Nの大半がマスターフィルムであると考えられるので、深刻な事態である。