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資料よもやま話2
イギリス駐屯軍と居留地社会
居留地社会の規範となる存在
山手公園野外音楽堂の第10連隊第1大隊軍楽隊
(『ファー・イースト』第2巻第3号、1871年7月11日号)当館蔵
この軍隊がわれわれの社会の真ん中に存在したことで、さまざまな恩恵を受けた。かれらはわれわれの社会の追求事から切り離され、公平にこの社会を判断し、交わりはするが同一にはならない。また異なった視点で物事を見、易々(やすやす)と移動し、軍隊のもつ特質という利点を失ってしまうのでわれわれの社会に属したり、同化してしまうことなどまったく考えない。異なった価値判断の基準を持ち、かれら自身とわれわれとの間に存在する違いを認識している。
軍隊のような集団は他者を訴えることのできる小さな社会を形成しているが、おそらくこの社会は人びとにそうとさとられず、またそれ故に訴えたこともない。先祖伝来の愛すべき、誇らしい故郷を持つ共同体に浸透した保守主義の強い精神のおかげで、連隊の伝統はつねに、日々完璧なものとなっていき、わが社会に属するどんな一員の意見よりも、ずっと信頼できるものである。
そこには長年にわたって培われた良識と名誉心、男らしさ、揺るがぬ判断力が蓄積されているので、熟慮の末に取るべき行動あるいは動機を導き出すことのできる人びとの指導あるいは判断の下で、程よく手堅い結論が導かれているという信頼が、つねに寄せられている。
軍隊社会は他者を裁くことをしないが、存在していること自体が裁いているようなものだ。われわれが話しているような地位を名乗らないが、軍隊社会は疑問の余地なくそれを持っている。かれらは政治あるいは歴史、科学についての話題には明るくないかもしれない。哲学的な制度についてはまったく知識がない。政治的には女王を支持し、宗教的には国教会派であり、こういった問題には疎く、頑迷であることが多い。
だからといって非難されるものではない。事実、それどころか、何やら急進主義と異教徒のにおいは、まさにそのような考えに近いところで育ち、それらを拒否しない人びとに染み込んでいるものである。忠誠心と保守主義、信仰心はそのような環境から生まれた自然な結果であり、保守主義者の宝庫は、民主主義精神が蔓延している立憲国家間で、また理想と個人の自由にご執心の国民の間で、まったく有用である。
この小さな社会を構成するのはほとんどがジェントルマン精神を持ち、そのように振る舞える男たちである。軍隊の任務は、自衛心の誇りを持たせ、個人的名誉心に対する敏感な感性と、高潔な人間とそうでない人間との違いに対する鋭敏な認識を植え付け、引き出すことにある。
軍の規則は、型にはまっていて、視野が狭く、その判断には時として誤りがあるかもしれない。しかし大方は、その倫理的基本は信頼できるものである。
かれらは、わが社会の経済活動のより健全な部分にとっては支援者である。遠慮がちで控えめであるが、支援してくれている。しかし不健全な部分に対しては無言の、効果的な圧力となっている。