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館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第94号
2006(平成18)年11月1日発行

表紙画像
企画展
地域リーダーの幕末・維新
−横浜近代化のにない手たち
企画展
飯田廣配と添田知通
−地域リーダーとしての生涯−
展示余話
資料の修復
『其唐松』修復の記録から
資料よもやま話
横浜のフランス人商会と開拓使
新収資料コーナー(2)
外国語新聞と内閣書記官室記録課
資料館だより

学術交流
仁川(いんちょん)広域市立博物館訪問記

  「東北アジアの関門都市」仁川

  仁川市は、首都・ソウルの南西約28キロに位置し、人口約260万人を抱える韓国第3の都市である。1883年の開港以来、政治・外交・軍事・経済など各分野で近代化をリードし続けてきたが、現在では仁川港に加えて新たに仁川国際空港という空の玄関を有し、「韓国の関門都市」から「東北アジアの関門都市」へと飛躍し続けているところである。

  仁川市の中心街からやや南に位置する松島(そんど)地区は都市開発計画の中心で、空港と港湾とを結ぶ国際交易の拠点として、情報通信産業や知識基盤産業を誘致するなど、横浜の「みなとみらい」を髣髴(ほうふつ)とさせる。

  仁川広域市立博物館

  その松島地区を望む小高い丘の上に仁川広域市立博物館がある。同館は1946年韓国初の公立博物館として開館した。設立当初は旧居留地内の洋風建築を活用していたが、1990年現在地に移転した。2006年7月10日、開館60周年を記念して博物館の増設と常設展示のリニューアルが完成し、当館と横浜都市発展記念館から高村直助館長(両館兼任)と調査研究員の青木祐介・松本洋幸が、開幕式典に参加した。


(1)仁川広域市立博物館
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仁川広域市立博物館


  新装オープンした博物館は、敷地面積約16,570m2、延床面積約5,830m2で3階建。展示室は、歴史I(考古〜中世)、歴史II(近世〜近現代)、美術工芸、書道及び企画展示室に分かれている。回遊型の動線を基本としており、ゆったりとしたスペースが確保されている。また居留地パノラマ模型などの大型の造形展示や、展示物を背景にした記念撮影用のコーナーが至る所に設けられていた。このほか、約200人規模を収容できる講堂、拓本や積み木が体験できる体験学習室、ミュージアムショップ、レストラン、図書室などの各室も充実していた。

  とりわけ目を引いたのが、Museum Facilitiesと称する同館の歴史を扱ったコーナーで、初代館長の著作、設立当時の博物館の調査ノートなどが展示されていた。このほか小規模ながら、Donors Galleryという展示室には、寄贈者の一覧と、寄贈資料を定期的に入れ替えて紹介するコーナーがあり、先人や寄贈者に対する細やかな気配りが感じられた。


(2)Museum Facilitiesのコーナー
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Museum Facilitiesのコーナー

  特別展示「都市紀行」

  リニューアル・オープンと併せて同館では、仁川・横浜・上海の都市形成史を比較する特別展示「都市紀行」を開催した。当館からは「ペリー上陸之図」や居留地境界石を含む34件48点の資料を出陳した。また横浜都市発展記念館からも双頭レールなど実物資料4点が出陳された。

  展示は開港前の都市風景、開港過程、租界の形成と拡大、近代建築と都市風景、都市の基盤整備、商工業と貿易都市への発展、近代文物の伝来と都市の変化、都市の外国人、都市の試練と再生、の9つのコーナーで構成され、各コーナーに3都市の資料が並列され、比較できるようになっていた。


(3)コーナー「居留地の建設」と居留地境界石(左から横浜・仁川・上海)
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コーナー「居留地の建設」と居留地境界石


  資料の解説文は極めて短いが、壁面パネルに画像資料のコラージュを施したり、立体物を効果的に配置するなどして、アジアの開港場のイメージを分かりやすく伝える工夫が随所に見られた。「ペリー上陸之図」をはじめ、開港当時の横浜居留地を描いた彩色豊かな地図・絵図類は、ひときわ来館者の目を引いていたようであった。

  未来と過去を繋ぐ博物館

  特別展示「都市紀行」は約4万人の来館者を集めて、9月10日成功裡に終わった。その後、同博物館は開館60周年記念事業の一環として、10月20日と21日の2日間、「華僑―世界化の主役」と題するシンポジウムを開催した。当館からは伊藤泉美が参加し、「横浜中華街の成長と華僑の経済活動」について報告を行った。これまでの上海市との交流に加えて、仁川市という新たな比較対象を得たことは、今後の調査研究活動に極めて寄与する部分が大きいと思われる。また同館では東アジアばかりでなく、更なる国際交流を促進する予定であるという。まさしく21世紀の国際交流都市を目指す松島地区・仁川市そのものを体現する博物館であると言える。

  その一方で、開館60年の輝かしい伝統が脈々と受け継がれている。初代館長の李慶成氏をはじめ多くの韓国の博物館関係者が駆けつけた開幕式典、展示物の前で深く頭を垂れる資料寄贈者の姿からは、その支持基盤の重厚さを肌で感じた。

  未来に向かう進取の姿勢と、先人の営みへの温かい眼差し。歴史に携わる者の基本姿勢を体感させて頂く貴重な機会を得たことに、仁川広域市立博物館の尹龍九氏、裴晟洙氏、李羲仁氏はじめ、関係者の方々へ、この場を借りて深謝申し上げたい。

(松本洋幸)


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