横浜開港資料館

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館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第144号
2019(平成31)年4月27日発行

表紙画像

企画展
古写真にみる神奈川宿・神奈川湊

二 ロシエ「神奈川湊」

次にロシエ「神奈川湊」(図版4)を検討してみよう。この写真の場所は、先述した「神奈川宿」の裏側にあたる。右下にみえる鳥居は青木町洲崎神社のもので、その前の道が東海道である。その沖合には帆を降ろして停泊する数艘の廻船と、荷物の揚げ降ろしに使用される多数の小船がみえる。ただし、船底近くまでみえるので、干潮時に撮影されたことになろう。写真の構図からは、洲崎神社後方の丘陵から同社周辺の東海道と海辺を撮影していることになる。

図版4 ロシエ「神奈川湊」 当館所蔵
図版4 ロシエ「神奈川湊」 当館所蔵

ここで留意しておきたいのは、鳥居の反対側の地点には家屋が建っておらず、海へと横道が伸びていることである。この点に関連して天保5年(1834)刊行の「江戸名所図会」の挿絵「洲崎明神」(図版5)を見てみよう。この挿絵は、青木町洲崎明神(洲崎神社)とその周辺における東海道沿いの情景を描いたものである。中央を左右に伸びる道が東海道であり、中央の鳥居が洲崎明神の鳥居で、ロシエ「神奈川湊」にみえる鳥居に該当する。鳥居の反対側は家屋が無く、若干、海に突き出ており、先端の石段の存在からは、この場所が荷物の荷揚場であったことが想定される(信仰的には海からの参道という位置付けにもなっている)。

図版5 「洲崎明神」 (『江戸名所図会』)当館所蔵
図版5 「洲崎明神」 (『江戸名所図会』)当館所蔵

洲崎神社前のこの場所は、廻船からハシケによって運ばれる荷物の荷揚場となっていた。荷揚げした荷物は東海道を通り、神奈川宿内の商店や蔵に運ばれたのであろう。また、開港以後は開港場・横浜へと向かう渡船の発着場所としても機能していたのである。

(斉藤 司)

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