横浜開港資料館

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館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第143号
2019(平成31)年2月2日発行

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企画展
神奈川宿台町からの眺望と横浜

三 台町十五景

安政5年(1858)、台町の茶屋である石崎楼の主人石崎桃郷は、「神奈川台石崎楼上十五景一望之図」(図版3)という浮世絵を刊行している。右側中央に位置する台町の茶屋を基点として扇が開くように眺望の対象である名所が点在している。台町からの眺望を一五の風景に定型化した「台町十五景」の設定である。

図版3 神奈川台石崎楼上十五景一望之図
安政5年(1858)初代広重 当館所蔵
図版3 神奈川台石崎楼上十五景一望之図 安政5年(1858)初代広重 当館所蔵

図版3に描かれた「台町十五景」を、同じく石崎桃郷により刊行された「台町十五景」の案内書『三五景一覧』の所収順で番号を付すと、①清水山清水・②将軍山桜花・③本覚寺宿鴉・④芝生の秋・⑤鹿野山望月・⑥平沼塩煙・⑦芙峯遥望・⑧港千鳥・⑨宮洲汐干・⑩野毛海苔舟・⑪横浜漁火・⑫権現山夕陽・⑬洲乾雪・⑭本牧舶風・⑮洲崎神社となる。この内、⑪横浜漁火と⑬洲乾雪の二景が横浜村に該当することになる。

「十五景」の内、①②③⑧⑨⑫⑮は青木町に存在している寺社や海岸の風景。ちなみに①清水山は台町の坂の頂上にある大日堂の山号であり、②将軍山は勝軍飯綱権現社が鎮座する山の名称である。また、④⑥⑩⑪⑬⑭は台町から本牧へと伸びる視線上に位置している。この他、⑤は東京湾の対岸にある上総国の鹿野山にかかる月の情景で、⑦芙峯遥望は富士山の遠望となっている。

このように十五景は、地域的には青木町を中心に、周辺の横浜・本牧・洲乾・野毛・平沼・芝生という近隣地域の他に、上総国鹿野山と富士山が含まれ、広い範囲に及んでいる。内容的にも海や船に関連したものや山の遠望も含まれるなどバリエーションに富んでいる。また、季節としては将軍山桜花・芝生秋・洲乾雪というように春夏秋冬それぞれに該当するものが存在する。さらに一日の時間帯に関しても、景色が一望できる昼間はいうに及ばず、権現山夕陽・鹿野山望月・横浜漁火といった夕方から夜の風景も組み込まれている。つまり、一年のどの季節においても、また一日のどの時間帯においてもかならずいくつかの風景を楽しむことができるように十五景が設定されたことになろう。

(斉藤 司)

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