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「開港のひろば」第143号
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ミニ展示
丸善の初荷風景
初荷は江戸時代から始まった行事で、1月2日、商家の仕事始めに行なわれた。新調したはっぴや手拭を着用し、卸商人は小売店へ、小売商人は有力な得意先へそれぞれ商品を届けた。その際、祝歌を歌うなどにぎやかに行なわれ、祝酒も用意されたという。自動車には初荷の幟旗(のぼりばた)が立てられた。馬が荷車をひいていたころには、馬を美しい鞍や綱で飾りたて、華やかな気分を盛りあげていた。
写真は近年寄贈を受けたもので、1936(昭和11)年正月の丸善による初荷風景である。中区若葉町の文房具問屋信林堂の店先に、正月飾りを付けた4台のトラックを連ねて初荷を届けたところだろう。荷台にはインキの箱が積まれ、「日本のインキを代表する丸善アテナインキ」の幡旗が翻っている。揃いのはっぴを着た店員も見られる。
輸入書籍や用品販売で知られる丸善は、早矢仕有的(はやし・ゆうてき)が、1869(明治2)年に横浜で創業した書店丸屋が前身である。屋号の丸は「地球」にちなんだもので、世界を相手に商売するという意味が込められていた。1870年日本橋に支店を開設し、のち本店とした。1880(明治13)年に有限会社丸善商社、1893(明治26)年には丸善株式会社となった。
創業間もない頃、インキの需要は増えていったが、国産のインキには粗悪品が多く、輸入品に頼らざるを得なかった。そこで、1885(明治18)年に、「丸善工作部」が日本橋店敷地内でインキ製造を開始した。工作部製のインキは好評を得て、「丸善インキ」、「丸善アテナインキ」として主要な商品となった。「アテナ」とは、ギリシャ神話に登場する知性の女神のことで、明治末より丸善が最高級のオリジナル製品に冠してきたという。
この写真は、1918(大正7)年の東京での初荷風景写真とともに、2月28日まで、ミニ展示コーナーで公開している。
(上田由美)