横浜開港資料館

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館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第113号
2011(平成23)年7月27日発行

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資料よもやま話
中居屋重兵衛関係資料から
−生糸貿易が始まった日−

生糸貿易の隆盛と中居屋

では、中居屋が最初に外国商館に生糸を販売したのはいつなのであろうか。伊藤の日記を見る限り、中居屋が生糸取引を活発におこなうようになるのは7月中旬以降のことであった。たとえば、7月21日以降の日記には、イギリスの外国商館であったジャーディン・マセソン商会のバーバー(英吉利バアベル)やデント商会の買弁であった波松らが大量の生糸を中居屋から購入したと記されている。

【資料3】
廿一日、天気
今暁明六ツ時頃、伊藤十兵衛殿、茅町御屋敷ニ有之候糸共廿弐箇受取ニ参ル、今日、南京波松ニ糸四十六箇売捌、英吉利バアベル江糸四十六箇売捌、白糸・青白取交壱斤代金壱両三分弐朱也、夕刻、ヲランタ・英吉利キネフラン品々注文引合ニ参
廿二日、雨天
今暁六ツ時頃、伊藤十兵衛殿、糸廿弐箇、船ニ乗、弁天岸へ着船有之候、大嵐ニ付、難渋之趣、夕方、キネフラン参り、品々注文、左之通、白練糸 三百斤、白糸・黄糸 七千斤
廿三日、天気
早朝、英吉利バアベル参り、白糸計七千斤引合、八月中ニ相渡候約定書取為替壱斤弐両ニ定、昨日、波松へ売渡申候白糸・黄糸都合四拾六箇相渡、右代金之内、今日、壱歩銀五百両、トル五千枚受取、白糸・黄糸取合四十六箇、此代弐千五百八拾斤、代四千八百三拾七両弐分也、ドルニして六千四百五拾枚也

中居屋と外国商館との取引量はかなりの数量に達し、7月23日のバーバーとの取引は1回で7000斤であった。また、前日におこなわれた波松との取引では46箇(2580斤)の生糸を販売している。この年、横浜から輸出された生糸は約23万斤と言われているから(石井寛治著、東京大学出版会発行『近代日本とイギリス資本』63頁)、中居屋は2日間で、この年に日本から輸出された生糸の約4パーセントを販売したことになる。

残念ながら中居屋は横浜で最初に生糸取引をした人物ではなかったが、彼が開港直後に横浜に進出し、生糸貿易の礎を築いた人物の1人であることは間違いない。今後も中居屋に関する新たな資料が発見されることを期待したいと思う。

(西川武臣)

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