J.S.C―F夫妻の日本旅行アルバム
ボルドー色の革表紙の左上に金文字で「日本 1909年4月−6月」ときざまれ、右下に同じく金文字でJ.S.C-Fというイニシャルがはいっている。このアルバムの持ち主についてそれ以上の手がかりはないが、夫婦の旅行者らしい写真があるので仮にJ.S.C-F夫妻アルバムと呼ぶことにする。
アルバムには各ページにほぼ4枚ずつ、全部で270枚あまりの写真が貼ってある。
写真をたどってみると、夫妻は1909年4月に神戸に到着、京都・奈良の観光ののち、日光や箱根を遊覧している。その後横浜から出港したのではないだろうか。日本観光のお定まりのコースをめぐった典型的な観光客と思われる。
このアルバムが興味深いのは、旅の道筋で出あった庶民の日常生活があざやかに写しとられているところである。道端の屋台、野菜売り、着物姿でぶらんこに興じる娘たち、学童や女学生、並んで体操する生徒、人力車の外国人のまわりに集まった子供たち、参詣の人びと、道端で遊ぶ子供たち、子守り、春の行楽地の家族…。当時の日本人の気取らない普段の生活がとらえられていて、見ていて興味が尽きない。説明が何も書かれておらず場所を特定しにくいという難点があるが、年代がはっきりしているので資料として価値がある。今回の展示では、京都・奈良・箱根などの観光地の写真とともに、こうした人びとの日常の姿も紹介している。
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