当館で収集した資料のなかに外国人の個人写真アルバムがあります。外国人旅行者のアルバムや横浜に住んでいた欧米人の家族アルバムなどです。今回の展示では、そのなかから20世紀初頭の旅行アルバムを選び、100年前の日本の風景と人びとの姿を紹介します。
欧米では19世紀後半になると外国旅行が珍しいものではなくなり、1870年代以降には世界一周旅行が人気をあつめました。日本の港にもこうした観光客が多数訪れ、日記や手紙やスケッチに日本の印象をかきとめました。そして帰国後にはおびただしい数の旅行記が出版されました。
そのころ横浜では日本の風景・風俗を写真にとり、彩色をほどこして豪華なアルバムに仕立てたものが販売されており、「横浜写真」として外国人の人気を博していました。こうした写真は一枚ずつでも購入でき、観光客には格好の土産物となっていました。
やがて1888年(明治21)、ロールフィルムを使うカメラ「コダック」が売り出されたのを端緒としてアマチュア写真家の時代が到来しました。彩色写真を買うかわりに、自分で写真をとる外国人旅行者の姿も珍しくなくなりました。
1893年の旅行ガイドブックによれば、当時横浜港の通関の際、カメラは課税品でした。日本に着いたばかりの旅行者が早速写真を撮ろうとして目立ちすぎると、しばしば後悔する羽目におちいるとガイドブックは警告しています(E.R.Scidmore, Westward to the Far East)。
19世紀末には幕末以来のいわゆる不平等条約が改正され、外国人の日本国内旅行も自由になりました。20世紀初頭の日本といえば、日清・日露戦争を経て急速に変わっていきましたが、観光客がカメラをむけたのは昔ながらの「日本らしい」風景や人びとだったといえるでしょう。そこには身構えた記念写真や異国趣味の風俗写真とは一味ちがう日常の風景や生活がくっきりととどめられています。
(伊藤久子)
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