横浜開港資料館

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館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第128号
2015(平成27)年4月22日発行

表紙画像

企画展
火保図と写真で読み解く、横浜外国人居留地

90番地付近の消火用井戸

「火保図」にはさまざまな情報が示されている。建物の用途、階層数、さらに火保図ならではの情報もある。図5は居留地90番地付近の部分図だが、「◎」印と「×」印が認められる。「×」は給水栓、「◎」は「消火用井戸」を示す。「火保図」全体の中で、給水栓は101個、消火用井戸は8個が数えられた。  平尾コレクションの写真を調べていくと、一枚に消火用井戸が写りこんでいることに気づいた。図6である。これは90番地付近を写したもので、中央の2棟の建物はスイス系総合商社のシーベル・ヘグナーだ。消火用井戸は写真の右端の建物の前にあるが、「火保図」と場所が一致する。井戸を拡大したのが図7である。消火用井戸と給水栓の数や設置場所などは、横浜外国人居留地の消防体制を知る上で貴重な情報といえる。

図8は山下町90番地の現況だが、当時の石垣の一部が活用されている。

図5 90番地付近部分図 図6と同じ位置関係にするため、天地逆転させた。 図5 90番地付近部分図 図6と同じ位置関係にするため、天地逆転させた。 図6 居留地90番地付近 1892年頃 平尾コレクション・当館保管 図6 居留地90番地付近 1892年頃 平尾コレクション・当館保管
図7 消火用井戸拡大図 図7 消火用井戸拡大図 図8 山下町90番地現況 図8 山下町90番地現況

関帝廟

「火保図」をながめていると、明らかに他と形が異なる建物に気づく。図9の中央左下にならぶ双子のような建物だ。■が3つ連なって1つの建物となり、同じような形のものが隣り合っている。これは何か。これらが所在する場所は140番地、中華街の一角である。

この■が連なった形は、中庭を持つ中国様式の建物であることを意味する。左側が華僑の自治組織である中華会館、右が関羽を祭る関帝廟である。どちらも1891年に従来の建物の大改築が行われている。その姿について、「堂宇の荘厳宏麗、あたかも城郭の如し」(『横浜市史』風俗編)と表現されている。

当時の関帝廟の姿を伝えるのが図10だが、確かに中庭が写っている。「火保図」によって、関帝廟と中華会館が中国様式の伝統的な建物であったこと、またその正確な所在位置が確認できる。

 

「火保図」とその時代の写真などをつきあわせることで、これまでわからなかった外国人居留地の具体的な姿が、少しずつ明らかになってきた。本格的な調査はこれからである。「火保図」はまた歴史の分野だけでなく、建築学や土木学、地理学などからのアプローチも重要である。当館では様々な分野の専門家のご協力を仰ぎながら、「火保図」の調査研究と活用をはかっていきたいと考えている。

(伊藤泉美)

図9 140番地付近部分図 図9 140番地付近部分図 図10 関帝廟 居留地140番地 『横浜名所写真帖』1909年より 当館蔵 図10 関帝廟 居留地140番地 『横浜名所写真帖』1909年より 当館蔵

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