横浜開港資料館

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「開港のひろば」第126号
2014(平成26)年10月22日発行

表紙画像

特別資料コーナー
管麺? 加里饌?
明治大正の洋食料理書

食欲の秋を迎えている。フレンチにイタリアン、現代の私たちは日々様々な洋食を楽しんでいる。

当館では明治大正期に出版された洋食などの料理書を20冊ほど所蔵している。料理書からは、料理の作り方や食卓のマナーとともに、洋食普及の状況も読みとれる。

1900年代以前の料理書は、翻訳ものと外国人からの聞き取り料理書が特徴とされる(江原絢子・東四柳祥子著『近代料理書の世界』2008年)。その嚆矢が仮名垣魯文編『西洋料理通』(明治5・1872年)【和本256−1〜2】で、横浜のイギリス人が使用人に伝授した手控えを基にしたとされる。この本は後の料理書に大きな影響を与えた。

それゆえ、丹羽庫太郎著『西洋料理精通』(明治36・1903年)【596−4】では、西洋で料理が最も美味を誇るのはフランスだが、日本では最初に英国の料理法が伝わって一般に広まり、その後各国の料理法が混同されたと指摘する。この本の校閲者は、明治大正期に横浜の海岸通りにあった、クラブホテルの大塚峯吉である。

1900年代以降は、高等女学校での「良妻賢母教育」を背景に、それまでの男性料理人を対象としたものではなく、家庭婦人向けの実用料理書が出版されていく。その先駆けが、下田歌子著『料理手引草』(明治31・1898年)【596−10】で、女性が著した初めての料理書である。「本邦料理」と「西洋料理」だけでなく、料理の心得なども説く、家事教科書的な一冊だ。

肉料理、魚料理などの素材別の本も出版される。その一つが百年ほど前に出された、藤井葆光著『素人に出来る野菜の西洋料理』だ(大正4・1915年)【稲生文庫T−218】。野菜は値段が安く種類も豊富で、高価な肉料理を作らなくとも良いと力説する。「羹(スープ)」「卵包焼(オムレット)」「加里饌(カレーもの)」「管麺(マカロニ)」「冷菜(サラダ)」などのジャンル別に、「花椰菜(カリフラワー)羹(スープ)」「赤茄(トマト)飯(ライス)」「伊風管麺(イタリーふうマカロニ)」など、オーブン不要で日本の鍋で代用が可能な、220あまりの野菜料理が紹介されている。一般家庭向けの実用書だ。

『素人に出来る野菜の西洋料理』(左)と
『西洋料理精通』(右)

『素人に出来る野菜の西洋料理』(左)と『西洋料理精通』(右)

11月1日(土)から30日(日)まで当館の特別資料コーナーで、これらの本を展示する。明治大正の料理書の世界に触れていただければ幸いである。

(伊藤泉美)

【 】内は当館の資料請求番号

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