横浜開港資料館

HOME > 館報「開港のひろば」 > バックナンバー > 第116号

館報「開港のひろば」バックナンバー

「開港のひろば」第116号
2012(平成24)年4月21日発行

表紙画像

特別資料コーナー
仮名垣魯文著『西洋料理通』
カレーライスのレシピを翻訳し紹介!

戯作者、仮名垣魯文(かながき ろぶん 1829〜1894)は、弘化4(1847)年、和堂珍海(わどう ちんかい)の名で処女作『清談青砥刃味』(せいだんあおとのきれあじ)を刊行後、合巻とよばれる挿絵をふんだんに配した大衆小説や、『安政見聞誌』(あんせいけんぶんし)など「時事もの」で活躍した。

た。  明治になると、文明開化の機運が高まる中、西洋の情報を巧みにとらえて、「開化もの」にも取り組んだ。明治4(1871)年には『牛店雑談 安愚楽鍋』(うしやぞうたん あぐらなべ)を、翌5(1872)年には『西洋道中膝栗毛』(せいようどうちゅうひざくりげ)や、ここで紹介する『西洋料理通』(せいようりょうりつう)を著した。

『西洋料理通』仮名垣魯文著 河鍋暁斎画
明治5(1872)年 万笈閣刊 上・下巻 (23・31丁)
『西洋料理通』仮名垣魯文著 河鍋暁斎画 明治5(1872)年 万笈閣刊 上・下巻(23・31丁)

『西洋料理通』は、同じく明治5年に敬学堂主人(けいがくどうしゅじん)が著した『西洋料理指南』(せいようりょうりしなん)と並んで、欧米の調理法を伝える我が国最初の翻訳料理書であった。また両書は、「西洋料理」という語を書名に冠した最初の本でもあった。凡例によると、魯文は、「我国人をして彼国(かのくに)の調理を伝習せしめ交際の一助(いちじょ)に充(あて)る」目的で、横浜の在留英国人が使用人に料理を作らせるために書いた「手澤帖」(てびかえ)2冊を参考に、本書を記したという。上巻の口絵4丁には、食卓を囲む西洋人の様子を描いた絵や、「乳汁入(しるいれ) ミルキポット」・「食卓(めしつくえ) テーブル」など、調理道具や食事の道具が紹介されており、引き続き上・下2冊で第1等から第70等まで、70項目の料理を紹介している。

第53等「コリードビーフ及モットン 粉を肉類にふりかける義」、第62等「カリド・ウイル・ヲル・フアウル カリーの粉にて肉或ハ鳥を料理するを云(いう)」では、カレー粉を使った肉の煮込みを「炊きたる米」に添える料理が取り上げられており、これがカレーライスのレシピを紹介した最初である。

本書の記述は、明治期に国内で刊行された西洋料理書にしばしば再録され、また明治26(1893)年には本書と同じ内容の本が『素人包丁(しろうとほうちょう)西洋料理の仕方』と題して刊行されるなど、『西洋料理通』は、明治期の料理本に大きな影響を与えた(『近代料理書の世界』江原絢子(えはら あやこ)・東四柳祥子(ひがしよつやなぎ しょうこ)著 2008年 ドメス出版)。

本書は、上・下巻と後編からなるが、当館が所蔵するのは上・下巻のみである(写真 請求番号 和本−256−1〜2)。

(石崎康子)

このページのトップへ戻る▲