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館報「開港のひろば」バックナンバー


展示余話2
ペリーの顔いろいろ
常設展リニューアルこぼれ話


 ペリーにはいろいろな顔があった。

 といっても職業や余技の話ではない。文字通り「顔」、つまり肖像画・肖像写真の話である。

 前号で紹介したように、当館では長年の懸案であった常設展示の模様替えにとりかかり、1階の第1展示室は3か月前にリニューアル・オープンした。幸いにも好評を博しているようである。2階の第2展示室もプロジェクトチームが企画を練りはじめている。

 改修された第1展示室の【開国―ペリー来航】のセクションには〈ペリーの顔いろいろ〉というパネルがある。ペリーを描いた瓦版を各種紹介したもので、当時の日本人が黒船来航をどう受け止めたか、という視点から日本側の資料として展示したものである。

 瓦版はほとんど想像の産物で、奇怪なものが多いが、庶民の旺盛な好奇心が伝わってくる。

 これと対照的なのが欧米のペリー肖像である。大半が写真をもとにしているのでリアルである。出版物や映像で見慣れたものも多い。今回のリニューアルでも〈ペリーの顔いろいろ〉のところに図版(1A)、〈ペリーの予言〉の挿絵に図版(4)を使うことになった。


(1A)Illustrated London News, 1853年5月7日号から

「開港のひろば」第77号
2002(平成14)年7月31日発行

企画展
「異国船の来航と海図
−欧米の日本測量探査史」
企画展ハイライト
展示余話1
ランバート氏のスポーツ写真
資料よもやま話
地方民権青年の教育履歴
−佐久間権蔵の東京遊学とその蔵書−
閲覧室から
新聞万華鏡(9)
資料館だより


(1B)上の画の裏焼き

 そこで浮上したのが裏焼き問題である。(4)の写真原版はブレイディ撮影、米国議会図書館の所蔵であるが、T. Roscoe and F. Freedman, Picture History of the U.S. Navy(1956)という本には誤って裏焼きされているので、それを複写するときには、意図的に裏焼きしないと正しい画像が得られない。


(4)プレィディ撮影 米国議会図書館蔵


 そんな話をしながら(1A)を見ると、今まで何の疑いもなく利用してきた画像に突然疑問がわいた。服の打合せが普通と逆なのである。ひょっとしたらこの画像は左右逆、つまり裏焼き状態なのではないだろうか。

 この肖像画は『絵入りロンドン・ニュース』1853年5月7日号の日本遠征の記事に掲載されたもので、キャプションには「ダゲレオタイプから」とある。

 ペリー来航当時、写真技術はダゲレオタイプ(銀板写真)が一般的な時代だった。銀板写真では、感光板に定着した画像が左右逆像になり、裏焼きのようになる。たとえば、武士の写真もそのまま撮ると、刀を右に差し、着物を左前に着た姿になってしまう。正常な姿に写るようにするには、わざと打合せを逆にし、刀を右に差し替えておかなければならない。

 ではペリーの他の肖像はどうなっているのだろうか。

 図版(2)は『ハーパーズ・ニュー・マンスリー・マガジン』1856年3月号のペリー。「ブレイディ撮影の写真から」とある。服の打合せは通常どおりだが、髪は右分け。


(2)Harper's New Monthly Magazine, 1856年3月号から


 図版(3)はハイネによる日本遠征石版画集Graphic Scenes in the Japan Expedition(1856年刊)の1枚。やはりダゲレオタイプをもとに石版画にしたもの。髪は左分け、服の打合せは普通どおり。


(3)Graphic Scence in the Japan Expedition 1856年刊


 図版(5)はJ.B.アーヴィング・ジュニアによる油絵で、ペリー没後の1868年の作(米国海軍兵学校博物館蔵、当館刊『ペリー来航関係資料図録』所収)。服の打合せは判然としないが、全体に(4)と酷似している。


(5)アーヴィング画、米国海軍兵学校博物館蔵、1868年


 ちなみに(1A)を裏焼きにしてみたのが(1B)である。服の打合せや髪型はこちらの方が他の肖像画と類似性が高いように思われる。

 ペリー来航から少し後になるが、万延元年遣米使節の通訳見習として渡米したトミーこと立石斧次郎の肖像写真が米国国立公文書館に残っている。その写真(おそらく湿板写真)をみると正常な画像なのだが、この写真からおこしたとみられる『ハーパーズ・ウィークリー』掲載のトミー像は、完全に左右逆像となっているのである(1860年6月23日号)。

 『絵入りロンドン・ニュース』のペリー像は、ダゲレオタイプの逆像がそのまま忠実に版画で再現されてしまったのではないだろうか、というのが現時点での推測である。

 なお、第1展示室の改修は斎藤多喜夫・佐藤孝・上田由美・伊藤泉美・伊藤久子が担当した。

(伊藤久子)





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最終更新日2006年8月20日  Last updated on Aug 20, 2006.
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