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閲覧室でご覧になれる資料〈5〉画像資料「商標」

【概要】

 商標とは、商品の標識(symbol)であり、商品の顔といわれる。ここで紹介する商標とは、商品生産者ないしは販売者が自己の製品を識別させるために、商品に添付ないし貼付する固有の意匠をもつラベル(private chop)をさす。
 日本において商標が法制化されたのは、1884(明治17)年の「商標条例」であるが、当館が多数所蔵する生糸商標を例にとれば、その始まりは1875年の福島県佐野組折返糸の「娘印」とされ(『日本蚕糸業史』第1巻)、法制化に先行して使用されていたことがわかる。
 もともと、商号・屋号を特定の図案とともに認識させることは古来から盛んに行われてきたことである。手札型の商標は、幕末期には外国商館によって輸入織物につかわれていた。生糸についていえば、とくに高値で取引されていた明治初期は、粗製濫造が問題化した時期であって、市場での信用を回復する意味から、出荷生糸にプライベート・チョップを付すことが、生産者側からおこることとなったのである。
 商標条例によって商標権は、登録によって発生するとの原則がうち立てられるが、当館所蔵の商標は、マッチなど登録されずに利用されたと思われるものも含まれている。当館所蔵の商標を大別すると、(1)生糸商標、(2)茶商標、(3)石鹸商標、(4)外国商館商標、(5)缶詰商標、(6)トマト・ケチャップ商標、(7)マッチ商標、(8)諸商標貼り交ぜ帖、(9)その他、である。
 商標は帳面に貼り込まれているものと、単体であるものとに分かれる。又、貼り込みも、特定種の商標のみで成立しているものばかりでなく、他種多様な商標が貼り交ぜられている場合がある。

【総数】約7,000点
【閲覧】生糸商標と茶商標は複製写真(一部をのぞく)。その他は原資料。
【複写】複製写真からの電子式複写。原資料の複写については別途撮影申請が必要。
【検索】「横浜開港資料館所蔵 生糸商標目録」

【主な資料】

  1. 生糸商標 《資料分類 Ab4-1》
     近代横浜のもっとも重要な貿易品が生糸であったことはよく知られている。当館は生糸商標を約5,000枚所蔵し、それらは重複があるものの、その数量と種類において他を圧している。
     生糸商標は、明治中期は「捻造」と呼ばれる生糸の束を巻く帯紙に貼付されたもので、写真のキャビネ版大の大版であった。その後しだいに帯紙が使われなくなり、生糸の束ねに紐しばりが一般となると、きつく結んだ紐と生糸の間に挟み込むタバコ箱大の小版かつ厚手のものに替わっていった。特定の商標名は横浜市場における個別工場の生糸の品位(格付)を表し、製糸家は信用維持のため商標管理に注意を払うばかりでなく、その制作も明治中期は石版印刷・銅版印刷などの美麗で高価な印刷法をもちいる場合が少なくなく、稀ではあるが大蔵省印刷局のものまでみられる。
     大量の生糸商標コレクションが今日残った理由として、@大正時代のピーク時には国内に数千の製糸場が展開し、それら製糸場がそれぞれ固有の意匠の商標を、生糸の品質に応じて複数もつことがおこなわれたこと、A特定の優等製糸を除く生糸商標の多くが、横浜に出荷後、荷口をまとめる必要から輸出商社によってはぎとられ、商社独自の商標につけ替えられることが一般で、生産者が付した商標が横浜に残りやすかったこと(また逆に輸出商社の商標はごく少ない)、B当館所蔵の生糸商標は一部をのぞき個人の収集品であり、あきらかにコレクターが存在したこと、などがあげられる。
     生糸商標貼込帖は14冊。長年三菱系商社の生糸貿易に携わっていた井上一郎氏からの寄贈資料のほか、原田久太郎、福井県生糸検査所、同県織物試験所、松代商業学校の旧蔵資料などを含んでいる。
  2. 茶商標 《資料分類 Ab4-2》
     約600点。茶商標は、当館所蔵品などを利用して、井手暢子氏が『蘭字―日本近代グラフィックデザインのはじまり』(1993年)を公表し、デザイン的価値とともに、その存在が広く知られるようになった。蘭字の「蘭」は中国語で西洋を意味し、「字」は文字の意味で、西洋文字を配した花鳥画のラベルの意である。
    茶は1899(明治32)年に清水港での輸出が始まり、取扱が減少するまで、横浜港では生糸に次ぐ輸出品であった。しかし茶は外国商館で加工・再製されたので、生糸のように横浜で商標がはぎ取られるということはなく、当館所蔵の茶商標は、もっぱら横浜をふくめた貿易港から海外に輸出された商標を、取引上の見本として帖に貼って残したものであり、コレクターなどによる恣意的な貼り交ぜはない。茶商標は、80ポンド(ないし70ポンド)詰木箱を「ござ」=アンペラでくるみ、麻縄などで縛ったものの側面に貼るものを最大として、40ポンド、20ポンド、5ポンドの茶箱用のほか、1ポンド・半ポンドの「ペーパー」「カートン」用に分かれるが、当館所蔵品は、80ポンド詰茶箱用と1ポンド・半ポンド「ペーパー」「カートン」用に大別される。
  3. 石鹸商標 《資料分類 Ab4-3》
     約50点。磯子村の堤磯右衛門は、1873(明治6)年民間で最初の石鹸製造に成功した。当館で所蔵する石鹸商標はすべて堤製のもので、40種類を数えるが、石鹸箱に貼付するラベル状のもの(大小あり)、髪洗い用石鹸の袋状のもの(表裏ともちがうデザイン)、がある。それぞれの商標がいつごろ用いられたものかは、今後の研究にまたなくてはならない。
  4. 外国商館商標 《資料分類 Ab4-4》
     約40点。外国商館の商標は、単体で所蔵するものと、生糸商標貼り込み帖のAb4-1(13)に混在しているものとに分けられる。
     当館所蔵の外国商館商標は、特定の商品に対して利用されたことを示す例が少ない。多くは「yds」=ヤードの単位のみか、「yds.24」と印刷されているものがあるが、それらは輸入織物であろう。しかしそれがどの種の織物であるかを特定しているものは少なく、「モスリン」(メリンス)と明記されたものが2枚あるのみである。また商標上に空白部分をもうけているものも多く、さまざまな利用に供したと思われる。
  5. 缶詰商標
     約300点。戦前期は、今日のように図柄や商品名を缶に直接印刷するということはなく、商標は缶の胴の部分に貼付する紙製の帯あるいは楕円形の紙片であった。当館が所蔵するまとまった缶詰商標は、大塚十三氏より寄贈された横浜の食料品・雑貨貿易商である駒田商店の貼り込み帖「缶詰ラベル帖」5冊と、「岡コレクション」の「缶詰等ラベル貼込帖」1冊がある。缶詰商標は、独立したコレクションがないため、資料分類No.は付与されていない。「駒田家資料目録」『岡コレクション資料目録』から該当資料を閲覧請求する。
  6. トマトケチャップ商標
     子安でケチャップを製造していた清水商店の商標。自社商標とともに、他社のケチャップ商標もある。「清水直吉家文書目録」から該当資料を閲覧請求する。
  7. マッチ商標 《資料分類 Ab4-5》
     110点。国内におけるマッチ製造の嚆矢は、確認できるかぎりでは、1875(明治8)年1月平沼に持丸幸助が建てた工場である(「マッチ」 当館編・刊『横浜もののはじめ考』)が、当館所蔵のマッチ商標に横浜製造であることを示すものは確認できない。その後阪神地区のマッチが隆盛し、横浜での製造はなくなる。当該商標は、小型マッチのものがほとんどである。「燐票 明治時代」と題のあるアルバムに貼付されている。
  8. 諸商標貼り込み帖 《資料分類 Ab4-0》
     個別業種の商標が複数貼り込まれているものをさす。上記の諸商標のほか、酒、食品、繊維などさまざまである。
  9. その他 《資料分類 Ab4-9》
     その他の商標としては、輸出麦稈真田 (Sigmund Schopflocher社製)、輸出絹物店(椎野正兵衛絹店)と、薄荷脳商標(多勢正平商店)・外国乾板印画紙貼付レッテル ・煙草資料貼交帖(いずれも「岡コレクション」)などがある。

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